説明
《The Enigmatic》
エニグマティック、すなわち不可思議なビンテージというものは少なくない。しかしこの生地に関してはもう5年ほど前に手に入れてからずっと、見惚れてきた最上級のMistero(ミステリー)だ。
端的に言えばカーキに青のほんのりとしたチェックだか、しかし見る人を惹きつけるこの魔性の雰囲気は、そんなに簡単に説明することはできない。
あるときは無地のように沈み、あるときはアバンギャルドなチェック柄を浮かべる。そしてこのビンテージウールカシミア特有の光沢感だ。
生地はパリッとして力強く、手触りは相反する滑らかさだ。ツイルの織り柄が堅実なキャバルリーのように美しい….かと思えばチェック柄が浮かんで、急にラグジュアリーなジャケット生地に表情を変える。
これはもはや何年前のものか分からない。グアベロの生地だということはわかるが、あの実直な老舗生地メーカーがこれほどまでに不可思議で、力強くも退廃的なジャケット生地を作っていたとは想像し得ない。
全てが謎に包まれている。私はずっとこの生地で自分のジャケットを仕立てよう、と企んできた。しかしどう仕立てたら良いか、これまでは分からなかったのである。
今では答えがわかるような気がする。この生地はシングルジャケットで少しだけゴージを下げ、ラペルを通常よりも1cm細くし、スクエアでクラシックな肩周りを注文して、Vゾーンの深い2つボタンか3つボタン段返りの2パッチポケットで仕上げるべきだ。
このふてぶてしいまでに細かい注文内容は、洋服屋の直感である。